臨界熱流束の出現条件の分析ならびに予想
解決すべき課題
原子炉をはじめ、発電用ボイラーや多くの化学製造システムに代表される広汎な工業プロセスでは、水や他の液体の沸騰現象が熱伝達や放熱のプロセスにおける中核的役割を担っている。沸騰現象を利用して冷却を行うこの気液二相流による冷却ダイナミクスには限界熱流束(Critical Heat Flux:CHF)が出現するという課題が存在する。参照:Critical Heat Fluxについて

沸騰冷却は、非常に高い除熱特性を有するため、軽水炉をはじめとする各種高熱流束機器の冷却に用いられており、汎用性の高い冷却技術であるが、最大の問題は除熱限界(限界熱流束、Critical Heat Flux: CHF)が存在するということである。CHF を超えると核沸騰から遷移沸騰へと瞬時に移行し(Departure from Nucleate Boiling: DNB)、発熱体の温度はその融点を超え、溶融・破損(バーンアウト)に至る。
CHFに達すると核沸騰から膜沸騰に遷移し、伝熱面における熱伝達係数(HTC)が急激に低下することに伴い伝熱面温度の急上昇、いわゆるバーンアウトが発生する。伝熱面温度の急上昇はプラント・機器の健全性に大きな影響を及ぼすため、これらのプラント・機器設計や安全性解析において、沸騰を伴う伝熱面の最大熱負荷(限界熱流束、CHF)を正確に予測することは極めて重要である。
バーンアウト現象は以下のとおり極めて複雑な気液二相流現象であり、CHFを予想するためのモデルにはその沸騰遷移の発生機構に基づきドライアウト型と Departure from Nucleate Boiling型(DNB型)に分類される。上図において蒸気量が増加することで管壁部に薄液膜が生じ中央を蒸気が流動する領域において液膜が消失するタイプをドライアウト型と呼ぶ。一方でDNB型では蒸気量は多くない(液流量は十分存在する)条件下で核沸騰から膜沸騰へ遷移する現象である。壁面近傍での気泡群の集中、スラグ気泡などの大気泡周囲の液膜がドライアウトすることによりDNB型のCHFは発生すると考えらるが、幾何形状や流動条件が異なる条件下では正確な発生予測が困難あることが大きな問題となっている。また大気泡周りで発生するDNBタイプは、発生条件がかなり限定されるため、十分な知見が得られていない。参照[3],[5]
DNB 熱流束を予測する初期の物理モデルとして、”Far field model”、”Near field model”、”On-surface model”など多数のモデルが提案されているものの確立されたモデルは存在しない。
AI活用における着眼点
ハイブリッド・ソリューション(ドメイン知識+AI)
参照
- [1] Zhao, Xingang (2020), “Data for: On the prediction of critical heat flux using a physics-informed machine learning-aided framework” https://arxiv.org/pdf/1906.11124.pdf
- [2] Zhao, Xingang (2018), “Machine Learning-Based Critical Heat Flux Predictors in Subcooled and Low-Quality Flow Boiling” https://www.osti.gov/servlets/purl/1545239
- [3] 関西大学システム理工学部 2013, 限界熱流束に対する流動様式の影響 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjmf/27/5/27_571/_pdf/-char/ja
- [4] 大阪大学 蒸発管内の流動様式の変化 スライド13など http://www-thd.mech.eng.osaka-u.ac.jp/Lecture/Netsu2007/Chap1.pdf
- [5] 大阪大学, 2014 軽水型原子力発電プラント炉心における気液二相流動の数値解析モデルに関する研究 https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/50516/27118_Dissertation.pdf
- [6] 大阪大学 蒸気クオリティーと熱平衡クオリティー http://www-thd.mech.eng.osaka-u.ac.jp/Lecture/Applied_Heat_Transfer2001/Introduction_of_Boiling.pdf
- Boiling and quenching heat transfer advancement by nanoscale surface modification https://www.nature.com/articles/s41598-017-06050-0
- 限界熱流束の機構論的評価に向けた研究 2019,原子力機構 https://confit.atlas.jp/guide/event-img/aesj2019f/2F_PL04/public/pdf?type=in